確率における「同様に確からしい」という前提に関する注意 (1)

確率の古典的な定義には、「同様に確からしい」という前提がある。これについての注意点として、まず、「同様に確からしい」とする仕方には自由度があるという指摘がある(例えば、小針あき宏『確率・統計入門』(岩波書店)の第1章を参照)。

ここでは、そのこととは別に、簡単な確率の問題であっても、それを解くにあたって確率空間を定式化する際に、古典的な定義が適用できない状況があることを指摘する。そのことは、例えば、教育関係者が中学生や高校生を対象に確率の問題を作成するときには注意すべきことかもしれない。また、確率の問題を解いていてしっくりこなかった人は、その理由の一端がわかるかもしれない。

全2回。

有限標本空間における確率の定義

確率の一般的な定義

有限集合Ω上の実数値関数 P で、任意の部分集合 A、B⊆Ωに対して

  • 0≦P(A)≦1,
  • A, Bが共通部分をもたなければ、P(A∪B)=P(A)+P(B),
  • P(Ω)=1, P(空集合)=0

を満たすようなものが存在するとき、組 (Ω, P) を確率空間、Ωを標本空間(あるいは全事象)、Ωの元を標本点という。また、Ωの部分集合を事象という。特に、Ωに属するただ1つの標本点 x からなる集合 {x} を根元事象という。

事象 A に対して、P(A)を A の起こる確率という。

P(A)=ΣP({x}) (x は A の元全体を動く)

であるから、各々の根元事象の確率が決まれば、すべての事象 A の確率 P(A) は決まる。

「同様に確からしい」という仮定

根元事象の確率はすべて等しいと仮定する:

  • Ωの任意の元 x, y に対して、P({x})=P({y}).

すると、任意の標本点 a∈Ω に対して、

1=P(Ω)=ΣP({x}) (x はΩの元全体を動く)
 =|Ω|・P({a}). 

∴ P({a})=1/|Ω|. 

これより、任意の事象 A⊆Ωに対して、

P(A)=ΣP({x}) (x は A の元全体を動く)
    =|A|/|Ω|. 

これは、確率における古典的な定義に一致する。ここでいう古典的な定義とは、「全体で N 個の場合があって、それらは同様に確からしいとする。ある事柄の起こる場合の数が r 個であるとき、r/N をその事柄の起こる確率とする」というものである。

確率の古典的な定義を適用する場合、試行の各結果(例:サイコロの出目、コイン投げの表裏、くじ引きの当たりはずれなど)がいわゆる「同様に確からしい」ことが前提となる。そして、同様に確からしいことを定式化したものが、根元事象の確率はすべて等しいという条件である。

確率空間を定式化する際に起こる不具合

「表の出る確率は p、裏の出る確率は 1-p であるような、いびつなコインを投げる」という試行を考える。その確率空間 (Ω, P) は

Ω={表、裏},  
P({表})=p,
P({裏})=1-p

によって定まる。根元事象の確率が等しいのは  p=1/2 のときで、このときのみ古典的な定義の適用対象となる。それ以外の場合は、根元事象の確率が異なるので、本来ならば古典的な定義の適用対象外である。

ただし、p が有理数の場合、例えば p=1/3 の場合には、標本点の個数を調整して、確率空間を

Ω={表、裏、裏}
任意の x∈Ωに対して、P({x})=1/3 

によって定めれば、古典的な定義に対応させることが一応は可能である。一方、p が無理数で与えられる場合には、もはや標本点の個数の調整では対処できない。

次回へつづく。

【theme : 数学
【genre : 学問・文化・芸術

プロフィール

よしいず

Author:よしいず
MATHEMATICS.PDFというウェブサイトを運営しています。

管理の都合上、トラックバックとコメントはオフにしてあります。ブログ経験者なら分かっていただけると思いますが、スパム(アダルトやその他の宣伝)ばかりなのが現実です。

リンクは自由です。当サイトの記事に対する間違いの指摘・意見・感想などを述べた記事からのリンクは歓迎です。ただし、ブログ記事アップ直後はミスが多く、頻繁に修正します。場合によっては削除する可能性もあります。その際、何も断りもなく修正・削除しますがご了承ください。内容を参考にする場合には投稿後一週間ほど様子を見てからにしてください(笑)。

記事の間違いを指摘するときは、その具体的箇所、理由(仕様に反するなど)・根拠(参考にした文献など)、代替案(同じ結果を得るための正しいやり方)も教えてください。そうしないと、(指摘される側および第三者はその時点では無知の状態なので、)どこが間違いなのか分かりませんし、本当に間違っているのかどうかが判断・検証できません。実際、間違いだと指摘されたことが結局は正しかったというケースもありますので。

このブログのタイトル一覧

リンク
月別アーカイブ
カテゴリ
最新記事
検索フォーム
RSSリンクの表示