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確率における「同様に確からしい」という前提に関する注意 (2)

簡単な確率の問題であっても、それを解くにあたって確率空間を定式化する際に、古典的な定義が適用できない状況があることを指摘する。前回の続き。

樹形結合で起こる古典的定義の不具合

一般に、各々の確率空間においては根元事象の確率は一定であっても、それらから定まる樹形結合の確率空間では根元事象の確率は一定にならない。ベイズの定理を適用するなどして条件付確率の問題を解くとき、この不具合に直面する。

樹形結合の確率空間

(Ω_0, P_0) を確率空間とする。Ω_0 の各点 a に対して確率空間 (Ω_a, P_a) が定まっているとき、

Ω={(x, y)|x∈Ω_0, y∈Ω_x}, 
P({(x, y)})=P_0({x})P_x({y})

とおくと、確率空間 (Ω, P) が定まる。これを樹形結合(tree composition)の確率空間という。

樹形結合の確率空間

樹形結合の確率空間における標本点 (x, y) は、「事象 {x} が起こるとき、事象 {y} が起こる場合」を表している。

条件付確率とベイズの定理

A、H⊆Ωを事象とし、P(H)≠0とする。事象 H が起こるという条件の下での事象 A の条件付確率 P(A|H) は

P(A|H)=P(A∩H)/P(H)

によって定義される。

Ωを標本空間、A_1, A_2, A_3、H を事象とし、Ω=A_1+A_2+A_3 とする。このとき、各 i=1, 2, 3 に対して、

                          P(A_i)P(H|A_i)
P(A_i|H)=----------------------------------------------
          P(A_1)P(H|A_1)+P(A_2)P(H|A_2)+P(A_3)P(H|A_3)

が成り立つ。これをベイズ(Bayes)の定理という。

なお、P(A_1), P(A_2), P(A_3) を事前確率、P(H|A_1)、P(H|A_2)、P(H|A_3) を尤度(ゆうど)、P(A_1|H), P(A_2|H), P(A_3|H) を事後確率という。

樹形結合の確率空間とベイズの定理

説明のために、3囚人問題を挙げる:

3人の囚人 a、b、c がいる。1人が恩赦になって釈放され、残り2人が処刑されることがわかっている。だれが恩赦になるのか知っている看守に対し、 a が「b、c のうち少なくとも1人処刑されるのは確実なのだから、2人のうち処刑される1人の名前を教えてくれても私についての情報を与えることにはならないだろう。1人を教えてくれないか」と頼んだ。看守は a の言い分に納得して「b は処刑される」と答えた。それを聞いた a は「これで釈放されるのは自分と c だけになったので、自分の助かる確率は 1/3 から 1/2 に増えた」と喜んだという。実際には、この答えを聞いたあと、a の釈放される確率はいくらになるか。

まず、3囚人問題の内容を整理しよう。釈放される囚人が選ばれる試行において、

  • a, b, c が釈放される確率はそれぞれ 1/3 ずつである。

看守が処刑される囚人を答える試行において、看守は「a は処刑される」とは決して答えないので、

  • a が釈放されるとき、看守が「b は処刑される」「c は処刑される」と答える確率はそれぞれ 1/2。
  • b が釈放されるとき、看守が「c は処刑される」と答える確率は 1。
  • c が釈放されるとき、看守が「b は処刑される」と答える確率は 1。

さて、釈放される囚人が選ばれる試行の確率空間を (Ω_0, P_0) とおき、a が釈放される場合を a∈Ω_0 とし、他も同様とする:

Ω_0={a, b, c}, 
P_0({a})=P_0({b})=P_0({c})=1/3. 

(Ω_0, P_0) においては根元事象の確率はすべて等しい。

a, b, c∈Ω_0 それぞれに対して、看守が処刑される囚人を答える試行の確率空間 (Ω_a, P_a), (Ω_b, P_b), (Ω_c, P_c) が定まる。a が釈放されるとき看守が「b は処刑される」と答える場合を b∈Ω_a とし、他も同様とする:

Ω_a={b, c}, P_a({b})=P_a({c})=1/2, 
Ω_b={c}, P_b({c})=1,
Ω_c={b}, P_c({b})=1.

(Ω_a, P_a), (Ω_b, P_b), (Ω_c, P_c) のそれぞれにおいても、根元事象の確率はすべて等しい。

このとき、3囚人問題を解くにあたってベイズの定理が想定している確率空間 (Ω, P) は、樹形結合の確率空間

Ω={(x, y)|x∈Ω_0, y∈Ω_x}, 
P({(x, y)})=P_0({x})P_x({y})

である。もとの確率空間との関係は、例えば

A_1={a}×Ω_a={(a, y)∈Ω|y∈Ω_a}, 
A_2={b}×Ω_b={(b, y)∈Ω|y∈Ω_b}, 
A_2={c}×Ω_c={(c, y)∈Ω|y∈Ω_c}, 
H={(x, b)∈Ω|x∈Ω_0}

とおくと、

P(A_1)=P_0({a}),
P(A_2)=P_0({b}),
P(A_3)=P_0({c}).

b∈Ω_aのとき、P(H|A_1)=P_a({b}),
b∈Ω_aでないとき、P(H|A_1)=0.

b∈Ω_bのとき、P(H|A_2)=P_b({b}),
b∈Ω_bでないとき、P(H|A_1)=0.

b∈Ω_cのとき、P(H|A_3)=P_c({b}),
b∈Ω_cでないとき、P(H|A_3)=0.

のようになっている。

確率空間 (Ω, P) においては、例えば、「a が釈放され、看守が『b は処刑される』と答える」事象の確率と「b が釈放され、看守が『c は処刑される』と答える」事象の確率はそれぞれ、

P({(a, b)})=P_0({a})P_a({b})=1/3×1/2=1/6, 
P({(b, c)})=P_0({b})P_b({c})=1/3×1=1/3. 

したがって、もはや根元事象の確率は一定でなく、「同様に確からしい」という条件は成立しない。

余談

3囚人問題は、条件付確率を求める問題だが、直観による答えと実際の確率計算による答えが一致しないことで知られている。とりあえず、ベイズの定理を使って解くことができる(このあたりの詳しい事情および解き方については、市川伸一『確率の理解を探る 3囚人問題とその周辺』(共立出版)を参照のこと)。

ベイズの定理は、確率空間を意識せずに機械的に条件付確率の計算ができるので、便利かつ強力である。しかしながら、裏を返せば、確率空間を直接触らないので、計算の仕方は習得できても、やっていることの意味が直感的にわかりにくい面がある。

3囚人問題でよくある誤答は 1/2 である。問題文を読んだとき、標本空間として Ω_0={a, b, c} だけを考え、条件付確率の条件を H={a, c} とするためだと思われる。しかしそれは、普通の人の発想としては自然で、何も言われなければそうするのがむしろ当然であるように思える。とはいえ、この勘違いは、「多くの条件付確率の問題では、2段階の試行が行われている」こと、さらには「問題の状況を定式化すると複数の確率空間 Ω_0, Ω_a, Ω_b, Ω_c から定まる樹形結合の確率空間になる」ことをあらかじめ知っていれば防げる。

また、今回、確率空間をきちんと記述してみることで、根元事象の確率が一定でないことが明確になった。これにより、なぜ樹形図を描いて場合の数を数える方法がうまくいかないかがわかる。というのも、樹形図は、根元事象を列挙するだけであって、それらの確率の違いは示されないからである。それに比べて、『確率の理解を探る 3囚人問題とその周辺』の中で紹介されているルーレット表現は、根元事象とそれらの確率がいっぺんに示せるので、確率空間 (Ω, P) を図形的に記述するのに効果的なツールである。

樹形図とルーレット表現

参考文献

  • 伊藤清:確率論, 岩波書店, 1991
  • 小針あき宏:確率・統計入門, 岩波書店, 1973
  • 市川伸一:確率の理解を探る 3囚人問題とその周辺, 共立出版, 1998

【theme : 数学
【genre : 学問・文化・芸術

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