キム・ヨナと浅田真央の大量得点差の理由

2010年バンクーバーオリンピックで浅田真央が銀メダルを取ったのは奇跡だ。2009年のGPファイナル進出を逃し、オリンピック出場すら危ぶまれていた状態からここまで来たのだから。一方のキム・ヨナは、2009年の二つのGPシリーズとGPファイナルで優勝、世界ランキング一位。ミスなく演技をすれば、金メダルは順当だった。

とはいえ、SP(ショートプログラム)は、キム・ヨナが78.50、浅田が73.78、その差4.72点。この時点で浅田は金メダルを狙える位置にいた。ところが、FP(フリープログラム)で、信じられないほど大きな点差がついてしまった。

SP、FPの採点結果は、バンクーバーオリンピックの公式サイトで確認できる:

Ladies - Free Skating : Schedule and Results : Vancouver 2010 Winter Olympics

総合得点(Total Score)は、技術点(Executed Elements)と演技点(Factored Program Components)の合計から減点(Deductions)を引いた点数だ。技術点はさらに、基礎点(Base Value)と出来栄え点(GOE:Grade of Execution)に分かれる:

総合得点 = 技術点 + 演技点 - 減点
技術点 = 基礎点 + GOE

FPの結果は、キム・ヨナが150.06点、浅田が131.72点、その差はなんと18.34点。より詳しくは、基礎点で5.04点、演技点で4.12点、GOEで8.58点、キム・ヨナが浅田を上回った。両者とも減点はなかった。

この大量得点差の理由は何だったのか。

中盤のジャンプ失敗

基礎点は技の難易度によって決められる。誰が演技しても同じ技なら基礎点は同じだ。冒頭の三つの技について基礎点(BV)だけを比較すると

キム・ヨナ:
Triple Lutz + Triple Toelop:10.00(BV)
Triple Flip:5.50(BV)
Double Axel + Double Toeloop + Double Loop:6.30(BV)
合計(BV):21.80

浅田:
Triple Axel:8.20(BV)
Triple Axel + Double Toeloop:9.50(BV)
Triple Flip + Double Loop:7.00(BV)
合計(BV):24.70

で、浅田のほうが2.9点上回っていた。しかしながら、中盤のジャンプの失敗が大きかった。

キム・ヨナ:
Double Axel + Triple Toeloop:7.50(BV)
Triple Salchow:4.95(BV)
Triple Lutz:6.60(BV)
合計(BV):19.05

浅田:
Triple Loop:5.50(BV)
Triple Flip(downgraded) + Double Loop + Double Loop:5.17(BV)
Single Toeloop (本来はTriple Toeloopの予定):0.44(BV)
合計(BV):11.11

これが致命傷になったことは否めない。しかし、仮に浅田がすべての技を成功させていたとしても、これだけでは18.34点もの点差を説明できない。

技の難易度以外の部分

技の難易度は、基礎点に反映される。しかし、今回の大量得点差の原因は、技の難易度以外の部分にある。つまり、GOEと演技点によるところが大きい。

まず、演技点は、

  • 振り付け(Choreography/Composition)
  • 技のつなぎ(Transitions/Linking Footwork)
  • 曲の解釈(Interpretation)
  • 演技力(Performance/Execution)
  • 滑走技術(Skating Skills)

の5つの要素からなり、それぞれ10点満点。フリーの場合はさらに各要素について1.6倍され、最終的には80点満点になる。

キム・ヨナが71.76点に対し、浅田は67.04。その差は4.72点。注目すべきなのは内訳で、1.6倍を掛ける前の得点が浅田は平均8.38点と決して悪くはなかった。むしろキム・ヨナが9点台を3つも出したことが異例なのだ。オリンピックの大舞台でSP、FPともにノーミスで演技をこなしたキム・ヨナへのジャッジの感情移入があったのだろう。ただ、もし仮に浅田もノーミスで演技をこなしていたなら、キム・ヨナに匹敵する演技点が得られたかもしれない。

技の出来栄え

大量得点差の一番の要因は、やはりGOEである。

GOEは個々の技ごとに+3点~-3点加算される。9人の審判団が採点し、2人のダミー(ジャッジ本人はそのことを知らない)を除き、さらに最高点と最低点を除いた5人の得点の平均値をとる。

このGOEにはガイドラインがあり、以下に公表されている:

ISU Communication No.1505(従来)

ISU Communication No.1557(2009-2010シーズンからの変更)

一つの技に対してチェック項目が8つ(従来は6つだったが、2009-2010シーズンになって2つ追加された)あり、2~3個満たせば1点プラス、4~5個満たせば2点プラス、6~8個満たせば3点プラス、という具合になっている。

GOEの結果は、キム・ヨナが17.4点、浅田が8.82点。その差は8.58点。全部で12個の技を行うので、平均して約0.72点がキム・ヨナのほうに多く加算されたことになる。

しかしながら、GOEに関して、すべてにおいてキム・ヨナが上回ったわけではない。ジャンプ以外では、浅田のほうが上なのだ。

キム・ヨナ:
Fly.Combination Spin 4:0.80(GOE)
Spiral Sequence 4:2.00(GOE)
Spiral Line Step Sequence 3:1.00(GOE)
Flying Sit Spin 4:0.60(GOE)
Change Foot Combination Spin 4:1.00(GOE)
合計(GOE):5.40

浅田:
Flying Sit Spin 4:0.80(GOE)
Spiral Sequence 4:2.60(GOE)
Fly. Combination Spin 4:0.80(GOE)
Straight Line Step Sequence:1.10(GOE)
Change Foot Combination Spin 4:0.80(GOE)
合計(GOE):6.10

つまり、浅田は、ジャンプの出来栄えでキム・ヨナに完敗した。

トリプルアクセル対トリプルルッツ

三回転ジャンプにはトウループ(Toeloop)、サルコウ(Salchow)、ループ(Loop)、フリップ(Flip)、ルッツ(Lutz)、アクセル(Axel)の六種類がある。後者ほど難しいとされる。

浅田の決め技がトリプルアクセルなら、キム・ヨナの決め技はトリプルルッツだ。単品での技の難易度はトリプルアクセルのほうが難しく、基礎点(BV)も高い。ところが、難易度が相対的に低い技でも出来栄えよく決めるなら、GOEが加算されてトリプルアクセルとの得点差が縮まってしまう。現実に、キム・ヨナのジャンプの出来栄えがジャッジに高く評価され、それが彼女の得点(Score)に大きく結びついた。

キム・ヨナ:
Triple Lutz:6.60(BV) + 2.00(GOE) = 8.60(Score)

浅田:
Triple Axel:8.20(BV) + 0.80(GOE) = 9.00(Score)

キム・ヨナと浅田のジャンプの出来栄えは具体的にどこが違ったのか?そのあたりの技術的な分析はもっと詳しい方々に譲りたい。

現在採用されているフィギュアスケートの採点方式は、技の出来栄えを重視する傾向だ。この採点方式のもとでは、トリプルアクセルや四回転ジャンプなどの大技に挑むよりも、演技の完成度を高めることに専念するほうが理に適っている。そのため、難易度の高い技に挑戦するインセンティブを失うとの批判もある。

とはいえ、キム・ヨナが単に守りに入ったとも言えない。キム・ヨナの「トリプルルッツ+トリプルトウループ」のコンビネーションジャンプには基礎点(BV)が10点もついているからだ。

キム・ヨナ:
Triple Lutz + Triple Toeloop:10.00(BV) + 2.00(GOE) = 12.00(Score)

浅田:
Triple Axel + Double Toeloop:9.50(BV) + 0.20(GOE) = 9.70(Score)

こうした技の組み合わせのうまさも、勝因の一つだったといえる。

【theme : バンクーバー冬季オリンピック
【genre : スポーツ

プロフィール

よしいず

Author:よしいず
MATHEMATICS.PDFというウェブサイトを運営しています。

管理の都合上、トラックバックとコメントはオフにしてあります。ブログ経験者なら分かっていただけると思いますが、スパム(アダルトやその他の宣伝)ばかりなのが現実です。

リンクは自由です。当サイトの記事に対する間違いの指摘・意見・感想などを述べた記事からのリンクは歓迎です。ただし、ブログ記事アップ直後はミスが多く、頻繁に修正します。場合によっては削除する可能性もあります。その際、何も断りもなく修正・削除しますがご了承ください。内容を参考にする場合には投稿後一週間ほど様子を見てからにしてください(笑)。

記事の間違いを指摘するときは、その具体的箇所、理由(仕様に反するなど)・根拠(参考にした文献など)、代替案(同じ結果を得るための正しいやり方)も教えてください。そうしないと、(指摘される側および第三者はその時点では無知の状態なので、)どこが間違いなのか分かりませんし、本当に間違っているのかどうかが判断・検証できません。実際、間違いだと指摘されたことが結局は正しかったというケースもありますので。

このブログのタイトル一覧

リンク
月別アーカイブ
カテゴリ
最新記事
検索フォーム
RSSリンクの表示