整域でない単項イデアル環の例

可換環のイデアルのうち、ただ 1 個の元で生成されるものを単項イデアルという。すべてのイデアルが単項イデアルである可換環を単項イデアル環という。そのうち整域であるものを単項イデアル整域(PID:principal ideal domain)という。

整数環 Z は、単項イデアル整域の代表的な例である。では、整域でない単項イデアル環の例は?

Z を整数環とする。n が合成数のとき、剰余環 Z/nZ は単項イデアル環である。しかも整域ではない。

答えを知ってしまえば大したことはないと思うかもしれない。ところが、代数学の入門書を何冊か見たところ、例として挙げられているのを発見できなかった。整数環 Z が単項イデアル整域であることは例として必ずといっていいほど載っているので、不思議な気がする。

証明

整数 x を代表元とする n を法とする同値類を [x] で表すことにする。この記号により、Z/nZ は

Z/nZ={[x]|x は整数}

と表せる。

整域でないこと

n が合成数のとき、ある整数 a, b が存在して、n=ab かつ 0<a, b<n。よって、

[a][b]=[ab]=[n]=[0], 
[a], [b]≠[0]. 

ゆえに、[a], [b] は Z/nZ における零因子である。

単項イデアル環であること

I を Z/nZ のイデアルとする。Z/nZ は有限集合なので、I はある有限個の元 A_1, A_2, ..., A_m∈Z/nZ で生成される。また、A_1, A_2, ..., A_m に対して、ある整数 a_1, a_2, ..., a_m が存在して、

A_i=[a_i], (i=1, 2, ..., m). 

さて、I は A_1, A_2, ..., A_m で生成されるから、任意の X∈I に対して、ある X_1, X_2, ..., X_m∈Z/nZ が存在して、

X=A_1X_1+A_2X_2+…+A_mX_m. 

一方、X_1, X_2, ..., X_m に対して、ある整数 x_1, x_2, ..., x_m が存在して、

X_i=[x_i], (i=1, 2, ..., m). 

ゆえに、

X=[a_1][x_1]+[a_2][x_2]+…+[a_m][x_m]
 =[a_1x_1+a_2x_2+…+a_mx_m]. 

d=gcd(a_1, a_2, ..., a_m) とおく。a_1, a_2, ..., a_m は d の倍数だから、ある整数 y_1, y_2, ..., y_m が存在して、

a_1=d y_1, a_2=d y_2, ..., a_m=d y_m. 

これらを代入すると、

X=[d y_1x_1+d y_2x_2+…+d y_mx_m]
 =[d][y_1x_1+y_2x_2+…+y_mx_m]
 ∈([d]). 

ゆえに、I⊆([d])。逆の包含関係も示そう。整数の性質により、ある整数 z_1, z_2, ..., z_m が存在して、

d=a_1z_1+a_2z_2+…+a_mz_m. 

これより、

[d]=[a_1z_1+a_2z_2+…+a_mz_m]
   =[a_1][z_1]+[a_2][z_2]+…+[a_m][z_m]
   ∈I. 

ゆえに、([d])⊆I。

I⊆([d]) と ([d])⊆I の両方がいえたので、I=([d])。すなわち、I は単項イデアルである。

単項イデアル環であることの別証

f:Z→Z/nZ, x→[x] を標準的な全射とする。Z/nZ のイデアルと nZ を含む Z のイデアルとは f によって 1 対 1 に対応している。

Z/nZ のイデアル I は、nZ を含む Z のあるイデアル J によって

I=f(J)={[x]|x∈J}

と書ける。また、J は n のある約数 m によって J=mZ と表せる。よって、

I={[x]|x∈mZ}
 ={[my]|y∈Z}
 ={[m][y]|y∈Z}
 =([m]). 

すなわち、I は単項イデアルである。

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