1=0 は必ずしも矛盾とは限らない

(a+b+c)2 という式を展開せよという問題があり、よくある「誤答」が

(a+b+c)2=a2+b2+c2

というものです。

しかしながら、この等式は常に間違っているというわけではありません。

一般の環

まず、環 R において、分配法則を用いて計算すると、R の任意の元 a、b、c に対して、

(a+b+c)2
=a(a+b+c)+b(a+b+c)+c(a+b+c)
=a2+b2+c2+ab+ba+bc+cb+ac+ca

となります。環は一般に、積について可換とは限らないため、ab=ba、bc=cb、ac=ca と必ずしもいえません。そのような環の具体例として、行列からなる環があります。

R が 可換環ならば、ab=ba、bc=cb、ac=ca が常に成り立つので、

(a+b+c)2=a2+b2+c2+2ab+2bc+2ca

のように計算できます。

ところで、一般的には「正答」とされる上の等式も、一般の環では必ずしも成立しないという意味で「誤答」といえるのではないか?こういった反論をされないためには、どのような環で考えているのかといった前提条件を最初から明言しておくことが大切です。

標数 2 の環

標数 2 の環では、単位元 1 を 2 倍すると 0 になります。つまり、2=0 が成り立ちます。そのことから、2 倍した元はすべて 0 に等しくなります。

具体例を挙げると、剰余環 Z/2Z は、標数 2 の可換環です。

R が可換環かつ標数が 2 であるならば、2ab=2bc=2ca=0 なので、

(a+b+c)2=a2+b2+c2

が成り立ちます。

したがって、冒頭の「誤答」は、標数 2 の可換環においては正しいわけです。

標数 1 の環

標数 2 だと 2=0 となるのだから、標数 1 だと 1=0 となるのではないか?

まさにその通りで、標数 1 の環においては、1=0 が成立し、矛盾は起きません。

剰余環 Z/2Z が標数 2 であったのと同様に、Z/1Z という剰余環も構成することができ、それは零元のみからなる環であり、標数は 1 です。

一般に、環 R について、3つの命題

  • R は零環である。すなわち、R の元は 0 のみである。
  • R の単位元と零元とが一致する。すなわち、1=0 が成り立つ。
  • R の標数は 1 である。

はすべて同値です。

そういうわけで、環についての一般論の中で 1=0 が成り立ったからといって、必ずしも矛盾とは限りません。

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