可換環のイデアル

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以下, 環というときには単位元を含むものとする. また, 部分環というときには単位元を共有するものとする.

極大イデアルと素イデアル

可換環 $R$ のイデアルで $R$ 自身と異なるものを, $R$ の真のイデアル (proper ideal) という.

可換環 $R$ の真のイデアル $\mathfrak{m}$ が極大イデアル (maximal ideal) であるとは, $R$ の任意のイデアル $\mathfrak{a}$ に対して, $$ \mathfrak{m}\subsetneq\mathfrak{a}\Longrightarrow \mathfrak{a}=R $$ が成り立つときにいう.

可換環 $R$ の真のイデアル $\mathfrak{a}$ が極大イデアルであるためには, 剰余環 $R/\mathfrak{a}$ が体であることが必要十分である. また, 零イデアルが $R$ の極大イデアルであることは, $R$ が体であることと同値である.

可換環 $R$ の任意の真のイデアル $\mathfrak{a}$ に対して, $\mathfrak{a}$ を含む $R$ の極大イデアルが存在する (ただし, 選択公理を仮定する).

可換環 $R$ の真のイデアル $\mathfrak{p}$ が素イデアル (prime ideal) であるとは, 任意の $a$, $b\in R$ に対して, $$ ab\in\mathfrak{p},\,a\not\in\mathfrak{p} \Longrightarrow b\in\mathfrak{p} $$ が成り立つときにいう. $R$ の素イデアル全体からなる集合を $\mathrm{Spec}(R)$ で表す.

可換環 $R$ の真のイデアル $\mathfrak{a}$ が素イデアルであるためには, 剰余環 $R/\mathfrak{a}$ が整域であることが必要十分である. したがって, 極大イデアルは素イデアルである. また, 零イデアルが $R$ の素イデアルであることは, $R$ が整域であることと同値である.

$R$ を可換環, $\mathfrak{a}$ を $R$ のイデアル, $\mathfrak{p}$ を $R$ の素イデアルととする. $\mathfrak{p}$ がイデアル $\mathfrak{a}$ の極小素イデアル (minimal prime ideal) であるとは, $\mathfrak{p}$ が $\mathfrak{a}$ を含む素イデアルのうちで極小なとき, すなわち, $\mathfrak{a}\subseteq\mathfrak{p}$ であり, $R$ の任意の素イデアル $\mathfrak{p}'$ に対して, $$ \mathfrak{a}\subseteq\mathfrak{p}'\subseteq\mathfrak{p} \Longrightarrow \mathfrak{p}'=\mathfrak{p} $$ が成り立つときにいう.

いくつかの素イデアルの共通部分として表されるイデアルを半素イデアル (semiprime ideal) という.

根基と準素イデアル

$R$ を可換環, $\mathfrak{a}$ を $R$ の真のイデアルとする. $\mathfrak{a}$ を含む極大イデアル全体の共通部分を, $\mathfrak{a}$ の Jacobson 根基 (Jacobson radical) という. また, 零イデアル $(0)$ の Jacobson 根基, すなわち $R$ の極大イデアル全体の共通部分を, $R$ の Jacobson 根基という.

$R$ を可換環, $\mathfrak{a}$ を $R$ のイデアルとする. $\mathfrak{a}\neq R$ のとき, $\mathfrak{a}$ を含む素イデアルすべての共通部分を $\mathfrak{a}$ の根基 (radical) という. また, $R$ の根基は $R$ 自身とする. $\mathfrak{a}$ の根基を $\sqrt{\mathfrak{a}}$ で表す. また, 零イデアルの根基 $\sqrt{(0)}$ を冪零根基 (nilradical) という.

可換環 $R$ のイデアルの根基は $R$ のイデアルである.

可換環 $R$ の任意のイデアル $\mathfrak{a}$ に対して, $$ \sqrt{\mathfrak{a}} = \{ a\in R \mid \mbox{ある整数 $n>0$ が存在して, $a^{n}\in\mathfrak{a}$} \} $$ が成り立つ.

可換環のイデアル $\mathfrak{a}$ の極小素イデアルすべての共通部分は, $\mathfrak{a}$ の根基 $\sqrt{\mathfrak{a}}$ に一致する.

可換環 $R$ の真のイデアル $\mathfrak{q}$ が準素イデアル (primary ideal) であるとは, 任意の $a$, $b\in R$ に対して, $$ ab\in\mathfrak{q},\,a\not\in\mathfrak{q}\Longrightarrow\mbox{ある整数 $n>0$ が存在して, $b^{n}\in\mathfrak{q}$} $$ が成り立つときにいう.

可換環 $R$ の真のイデアル $\mathfrak{a}$ が準素イデアルであるためには, 剰余環 $R/\mathfrak{a}$ の零因子がすべて冪零元であることが必要十分である.

$\mathfrak{q}$ を準素イデアルとするとき, $\sqrt{\mathfrak{q}}$ は $\mathfrak{q}$ を含む最小の素イデアルである.

準素イデアル $\mathfrak{q}$ が素イデアル $\mathfrak{p}$ に属するとは, $\sqrt{\mathfrak{q}}=\mathfrak{p}$ が成り立つときにいう. またこのとき, $\mathfrak{q}$ を $\mathfrak{p}$-準素イデアル ($\mathfrak{p}$-primary ideal) という.

準素分解

$R$ を可換環とし, $\mathfrak{a}$ を $R$ の真のイデアルとする. ある準素イデアル $\mathfrak{q}_{1}$, $\ldots$, $\mathfrak{q}_{n}$ によって $\mathfrak{a}=\mathfrak{q}_{1}\cap\cdots\cap\mathfrak{q}_{n}$ と表されるとするとき, これを $\mathfrak{a}$ の準素分解 (primary decomposition) という.

イデアルの準素分解 $\mathfrak{a}=\mathfrak{q}_{1}\cap\cdots\cap\mathfrak{q}_{n}$ が無駄のない準素分解 (irredudant primary decomposition) であるとは, 各 $i=1$, $2$, $\ldots$, $n$ について $\mathfrak{a}\neq\mathfrak{q}_{1}\cap\cdots\cap\mathfrak{q}_{i-1}\cap\mathfrak{q}_{i+1}\cap\cdots\cap\mathfrak{q}_{n}$ が成り立つときにいう.

無駄のない準素分解において, 集合 $\{\sqrt{\mathfrak{q}_{i}}\mid i=1,\,2,\,\ldots,\,n\}$ は $\mathfrak{a}$ によって定まり, 準素分解の表し方によらない. 各 $\sqrt{\mathfrak{q}_{i}}$ ($i=1,\,2,\,\ldots,\,n$) を $\mathfrak{a}$ の素因子 (prime divisor) または随伴素イデアル (associated prime ideal) という.

イデアルの準素分解 $\mathfrak{a}=\mathfrak{q}_{1}\cap\cdots\cap\mathfrak{q}_{n}$ が正規分解 (normal decompositon) あるいは最短表現 (shortest representation) であるとは, それが無駄のない準素分解であり, しかも $\sqrt{\mathfrak{q}_{1}}$, $\ldots$, $\sqrt{\mathfrak{q}_{n}}$ が互いに異なるときにいう.

$\mathfrak{a}$ の素因子が極小素因子 (minimal prime divisor) であるとは, それが他の素因子に含まれないときにいう. 極小素因子でない素因子, すなわち他の素因子に含まれるような素因子を埋没素因子 (embedded prime divisor) という.

可換環において, イデアル $\mathfrak{a}$ の極小素イデアルは $\mathfrak{a}$ の極小素因子になる.

可換環 $R$ の真のイデアル $\mathfrak{a}$ が可約 (reducible) であるとは, $R$ のイデアル $\mathfrak{b}$, $\mathfrak{c}$ が存在して, $$ \mathfrak{a} = \mathfrak{b}\cap\mathfrak{c},\quad \mathfrak{b}\neq \mathfrak{a},\quad \mathfrak{c}\neq\mathfrak{a} $$ が成り立つときにいう. $\mathfrak{a}$ が既約 (irreducible) であるとは, $\mathfrak{a}$ が可約でないときにいう. すなわち, $R$ の任意のイデアル $\mathfrak{b}$, $\mathfrak{c}$ に対して, $$ \mathfrak{a}=\mathfrak{b}\cap\mathfrak{c} \Longrightarrow \mbox{$\mathfrak{b}=\mathfrak{a}$ または $\mathfrak{c}=\mathfrak{a}$}$$ が成り立つときにいう.

Noether 環のすべてのイデアルは, 既約なイデアルの共通集合として表される. また, Noether 環において, すべての既約イデアルは準素イデアルである. ゆえに, Noether 環のすべてのイデアルは準素分解をもつ.

参考文献

  • 成田正雄: イデアル論入門, 共立出版, 1970.
  • 永田雅宜: 可換環論, 紀伊国屋書店, 1974.
  • 日本数学会 (編):岩波数学辞典 第 4 版, 岩波書店, 2007.

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