非可換環上の自由加群に対して階数が定義できない例

環上の加群で基底をもつものを自由加群という.

可換環上の自由加群の基底の濃度は一定である. 基底の濃度を階数という.

斜体上の加群は常に自由加群であり, その基底の濃度は一定である. 斜体上の加群のことをベクトル空間といい, その階数のことを次元という.

非可換環上の自由加群については, ある基底の濃度が無限ならば, すべての基底の濃度が一致する. しかしながら, 有限個の元からなる基底をもつ場合, その個数は必ずしも一定とは限らない.

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非可換環上の自由加群で基底の個数が一定でない例

$K$ を体とし, $V$ を $K$ の可算無限個の直和とする: $$ V=\bigoplus_{i=1}^{\infty}K. $$ $V$ は $K$ 上の無限次元ベクトル空間である. $V$ から $V$ 自身への $K$ 線形写像全体 $R=\mathrm{End}_{K}(V)$ の元 $f$, $g$ に対して, 和 $f+g$ を $$ (f+g)(x) = f(x) + g(x)\quad (x\in V) $$ により定める. また, 積 $f\circ g$ を $$ (f\circ g)(x) = f\bigl(g(x)\bigr)\quad (x\in V) $$ により定める. この和とスカラー倍により, $R$ は環になる. $R$ は非可換環である.

直和 $V\oplus V$ から $V$ への $K$ 線形写像全体 $\mathrm{Hom}_{K}(V\oplus V, V)$ の元 $p$, $q$ に対して,和 $p+q$ を $$ (p+q)(x_{1}, x_{2}) = p(x_{1}, x_{2}) + q(x_{1}, x_{2})\quad \bigl((x_{1}, x_{2})\in V\oplus V\bigr) $$ により定める. さらに, $\mathrm{Hom}_{K}(V\oplus V, V)$ の元 $p$ と $R$ の元 $f$ に対して, スカラー倍 $f\circ p$ を $$ (f\circ p)(x_{1}, x_{2}) = f\bigl(p(x_{1}, x_{2})\bigr)\quad \bigl((x_{1}, x_{2})\in V\oplus V\bigr) $$ により定める. この和とスカラー倍により, $\mathrm{Hom}_{K}(V\oplus V, V)$ は左 $R$ 加群になる. さらに, 無限次元ベクトル空間の基底の濃度は一定であるから, $K$ 上のベクトル空間として $V\cong V\oplus V$ である. $\Phi:V\oplus V\rightarrow V$ を $K$ 上の同型写像とすると, 写像 $$ \varphi: R\rightarrow\mathrm{Hom}_{K}(V\oplus V, V),\quad f\mapsto f\circ\Phi $$ は $R$ 同型である. 実際, $R$ の任意の元 $f$, $g$, $h$ と $V\oplus V$ の任意の元 $(x_{1}, x_{2})$ に対して, \begin{align*} &\varphi(f+g)(x_{1}, x_{2}) \\ &\quad = (f+g)\bigl(\Phi(x_{1}, x_{2})\bigr) \\ &\quad = f\bigl(\Phi(x_{1}, x_{2})\bigr) + g\bigl(\Phi(x_{1}, x_{2})\bigr) \\ &\quad = \varphi(f)(x_{1}, x_{2}) + \varphi(g)(x_{1}, x_{2}) \\ &\quad = \bigl(\varphi(f)+\varphi(g)\bigr)(x_{1}, x_{2}), \\ &\varphi(h\circ f)(x_{1}, x_{2}) \\ &\quad = h\Bigl(f\bigl(\Phi(x_{1}, x_{2})\bigr)\Bigr) \\ &\quad = (h\circ\varphi(f))(x_{1},x_{2}). \end{align*}

次に, $R\oplus R$ の元 $(f, g)$ に対して, 写像 $\psi(f, g): V\oplus V\rightarrow V$ を $$ \psi(f, g)(x_{1},x_{2}) = f(x_{1}) + g(x_{2})\quad \bigl((x_{1}, x_{2})\in V\oplus V\bigr) $$ により定めると, $\psi(f, g)$ は $K$ 線形写像になる. 実際, $V\oplus V$ の任意の元 $(x_{1}, x_{2})$, $(y_{1}, y_{2})$ と $K$ の任意の元 $c$ に対して, \begin{align*} &\psi(f,g)(x_{1}+y_{1},x_{2}+y_{2}) \\ &\quad = f(x_{1}+y_{1}) + g(x_{2}+y_{2}) \\ &\quad = \bigl(f(x_{1})+g(x_{2})\bigr) + \bigl(f(y_{1})+g(y_{2})\bigr) \\ &\quad = \psi(f,g)(x_{1},x_{2}) + \psi(f,g)(y_{1},y_{2}), \\ &\psi(f,g)(cx_{1},cx_{2}) \\ &\quad = f(cx_{1}) + g(cx_{2}) \\ &\quad = c\,\bigl(f(x_{1})+g(x_{2})\bigr) \\ &\quad = c\,\psi(f,g)(x_{1},x_{2}). \end{align*} これにより, 写像 $$ \psi: R\oplus R \rightarrow\mathrm{Hom}_{K}(V\oplus V, V) $$ が定まる. $\psi$ は $R$ 準同型である. 実際, $R\oplus R$ の任意の元 $(f, g)$, $(f', g')$ と $R$ の任意の元 $h$ と $V\oplus V$ の任意の元 $(x_{1}, x_{2})$ に対して, \begin{align*} &\psi(f+f',g+g')(x_{1},x_{2}) \\ &\quad = (f+f')(x_{1}) + (g+g')(x_{2}) \\ &\quad = \bigl(f(x_{1})+g(x_{2})\bigr) + \bigl(f'(x_{1}) + g'(x_{2})\bigr) \\ &\quad = \psi(f,g)(x_{1},x_{2}) + \psi(f',g')(x_{1},x_{2}) \\ &\quad = \bigl(\psi(f,g) + \psi(f',g')\bigr)(x_{1},x_{2}), \\ &\psi(h\circ f,h\circ g)(x_{1},x_{2}) \\ &\quad = h\bigl(f(x_{1})\bigr) + h\bigl(g(x_{2})\bigr) \\ &\quad = h\bigl(f(x_{1})+g(x_{2})\bigr) \\ &\quad = \bigl(h\circ\psi(f,g)\bigr)(x_{1},x_{2}). \end{align*} $\psi$ は単射である. なぜなら, $\psi(f, g)$ が零写像であれば, $V$ の任意の元 $x_{1}$, $x_{2}$ に対して, $$ f(x_{1}) + g(x_{2}) = 0. $$ $x_{2}=-x_{1}$ のとき, $f(x_{1})=g(x_{1})$ であり, $x_{1}$ は任意だから, 写像として $f=g$. ゆえに, $V$ の任意の元 $x_{1}$, $x_{2}$ に対して, $$ f(x_{1}+x_{2}) = 0. $$ $x_{2}=0$ のとき, $f(x_{1})=0$ であり, $x_{1}$ は任意だから, $f$ は零写像である. またこのとき, $g$ も零写像である. さらに, $\psi$ は全射である. 実際, $\iota_{1}$, $\iota_{2}$ を $V$ から $V\oplus V$ への入射とする: \begin{align*} &\iota_{1}: V\rightarrow V\oplus V,\quad x\mapsto (x, 0), \\ &\iota_{2}: V\rightarrow V\oplus V,\quad x\mapsto (0, x). \end{align*} $\mathrm{Hom}_{K}(V\oplus V, V)$ の任意の元 $p$ に対して, $$ p = \psi(p\circ\iota_{1}, p\circ \iota_{2}) $$ が成り立つ. 以上より, $\psi$ は $R$ 同型である.

したがって, $R$ 同型 $$ R\stackrel{\varphi}{\cong}\mathrm{Hom}_{K}(V\oplus V, V)\stackrel{\psi^{-1}}{\cong} R\oplus R $$ が得られる. これにより, $R=\mathrm{End}_{K}(V)$ 上の自由加群においては基底の個数が必ずしも一定ではないことがわかる.

参考文献

  • 桂利行: 代数学II 環上の加群, 東京大学出版会, 2007.
  • 堀田良之: 代数入門―群と加群―, 裳華房, 1987.

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