Lindemannの定理と簡単な応用例

Lindemann の定理といくつかの簡単な応用例.

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代数的数と超越数

有理数体を $\mathbb{Q}$, 複素数体を $\mathbb{C}$ で表す.

$\alpha\in\mathbb{C}$ が代数的数であるとは, ある $0$ でない多項式 $f(X)\in\mathbb{Q}[X]$ が存在して, $\alpha$ が $f(X)$ の根であるとき, すなわち $f(\alpha)=0$ であるときにいう.

上で述べた代数的数の定義は, ある $a_{0}$, $a_{1}$, $\ldots$, $a_{n}\in\mathbb{Q}$ が存在して \[ a_{0}+a_{1}\alpha+a_{2}\alpha^{2}+\cdots+a_{n}\alpha^{n}=0,\quad a_{n}\neq 0 \] が成り立つことと同値である. さらにこの条件は, 少なくとも $1$ つが $0$ でない $a_{0}$, $a_{1}$, $\ldots$, $a_{n}\in\mathbb{Q}$ が存在して \[ a_{0}+a_{1}\alpha+a_{2}\alpha^{2}+\cdots+a_{n}\alpha^{n}=0 \] が成り立つことと同値である.

$\alpha\in\mathbb{C}$ が超越数であるとは, $\alpha$ が代数的数でないとき, すなわち, 任意の $0$ でない多項式 $f(X)\in\mathbb{Q}[X]$ に対して $f(\alpha)\neq 0$ が成り立つときにいう.

言い換えると, 任意の $a_{0}$, $a_{1}$, $\ldots$, $a_{n}\in\mathbb{Q}$ に対して \[ a_{0}+a_{1}\alpha+a_{2}\alpha^{2}+\cdots+a_{n}\alpha^{n}=0 \Longrightarrow a_{0}=a_{1}=\cdots=a_{n}=0 \] が成り立つとき, $\alpha$ を超越数という.

代数的数の全体からなる集合を $\overline{\mathbb{Q}}$ で表す. $\overline{\mathbb{Q}}$ は複素数体 $\mathbb{C}$ の部分体をなす.

[例] 任意の有理数 $a$ に対して, $a$ は多項式 $X-a$ の根である. よって, 有理数はすべて代数的数であり, $\mathbb{Q}\subseteq\overline{\mathbb{Q}}$ である. ついでに言うと, 対偶を考えれば, 代数的数でない実数はすべて無理数であることが直ちにわかる.

[例] 虚数単位 $\sqrt{-1}$ は代数的数である. 実際, $\sqrt{-1}$ は多項式 $X^{2}+1$ の根である.

[注意] $2$ つの超越数の和・差・積・商は, 必ずしも超越数になるとは限らない.

Lindemann の定理

$K$ を $\mathbb{C}$ の部分体とする. $\alpha_{1}$, $\alpha_{2}$, $\ldots$, $\alpha_{n}\in\mathbb{C}$ が $K$ 上 $1$ 次従属であるとは, ある $a_{1}$, $a_{2}$, $\ldots$, $a_{n}\in K$ が存在して \[ a_{1}\alpha_{1} + a_{2}\alpha_{2} + \cdots + a_{n}\alpha_{n} = 0 \] が成り立つときにいう.

$\alpha_{1}$, $\alpha_{2}$, $\ldots$, $\alpha_{n}\in\mathbb{C}$ が $K$ 上 $1$ 次独立であるとは, $K$ 上 $1$ 次従属でないとき, すなわち, 任意の $a_{1}$, $a_{2}$, $\ldots$, $a_{n}\in K$ に対して \[ a_{1}\alpha_{1} + a_{2}\alpha_{2} + \cdots + a_{n}\alpha_{n} = 0 \Longrightarrow a_{1}=a_{2}=\cdots=a_{n}=0 \] が成り立つときにいう.

[Lindemann の定理] $\beta_{0}$, $\beta_{1}$, $\ldots$, $\beta_{n}$ ($n\geq 0$) を相異なる代数的数とする. このとき, $e^{\beta_{0}}$, $e^{\beta_{1}}$, $\ldots$, $e^{\beta_{n}}$ は $\overline{\mathbb{Q}}$ 上 $1$ 次独立である. すなわち, 任意の代数的数 $\alpha_{0}$, $\alpha_{1}$, $\ldots$, $\alpha_{n}$ に対して \[ \alpha_{0}e^{\beta_{0}} + \alpha_{1}e^{\beta_{1}} + \cdots + \alpha_{n}e^{\beta_{n}} = 0 \Longrightarrow \alpha_{0}=\alpha_{1}=\cdots=\alpha_{n}=0 \] が成り立つ.

$K$ を $\mathbb{C}$ の部分体とする. $\alpha_{1}$, $\alpha_{2}$, $\ldots$, $\alpha_{n}\in\mathbb{C}$ が $K$ 上代数的従属であるとは, ある $0$ でない多項式 $f(X_{1},\,X_{2},\,\ldots,\,X_{n})\in K[X_{1},\,X_{2},\,\ldots,\,X_{n}]$ が存在して $f(\alpha_{1},\,\alpha_{2},\,\ldots,\,\alpha_{n})=0$ となるときにいう.

[注意] $n=1$ の場合を考えたとき, $\alpha\in\mathbb{C}$ が $\mathbb{Q}$ 上代数的従属であることと代数的数であることは同じ意味である.

$\alpha_{1}$, $\alpha_{2}$, $\ldots$, $\alpha_{n}\in\mathbb{C}$ が $K$ 上代数的独立であるとは, $K$ 上代数的従属でないとき, すなわち, 任意の $0$ でない多項式 $f(X_{1},\,X_{2},\,\ldots,\,X_{n})\in K[X_{1},\,X_{2},\,\ldots,\,X_{n}]$ に対して $f(\alpha_{1},\,\alpha_{2},\,\ldots,\,\alpha_{n})\neq 0$ が成り立つときにいう.

[注意] $n=1$ の場合を考えたとき, $\alpha\in\mathbb{C}$ が $\mathbb{Q}$ 上代数的独立であること超越数であることは同じ意味である.

上で述べた Lindemann の定理は, 次の命題と同値である: $\alpha_{0}$, $\alpha_{1}$, $\ldots$, $\alpha_{n}$ を $\mathbb{Q}$ 上 $1$ 次独立な代数的数とする. このとき, $e^{\alpha_{0}}$, $e^{\alpha_{1}}$, $\ldots$, $e^{\alpha_{n}}$ は $\mathbb{Q}$ 上代数的独立である.

応用例

[例題] $\alpha$ を $0$ でない代数的数とする. このとき, $e^{\alpha}$ は超越数である.

[解答例] $a_{0}$, $a_{1}$, $\ldots$, $a_{n}\in\mathbb{Q}$ とし, \[ a_{0}+a_{1}e^{\alpha}+a_{2}(e^{\alpha})^{2}+\cdots+a_{n}(e^{\alpha})^{n}=0 \] であるとする. この等式は次の等式と同値である: \[ a_{0}e^{0}+a_{1}e^{\alpha}+a_{2}e^{2\alpha}+\cdots+a_{n}e^{n\alpha}=0. \] $\alpha$ は $0$ でない代数的数だから, $0$, $\alpha$, $2\alpha$, $\ldots$, $n\alpha$ は相異なる代数的数である. よって, Lindemann の定理により \[ a_{0}=a_{1}=\cdots=a_{n}=0. \] ゆえに, $e^{\alpha}$ は超越数である. (解答終)

[例題] $\pi$ は超越数である.

[解答例] 背理法により証明する. もし仮に $\pi$ が代数的数であるとすると, $\pi\sqrt{-1}$ も代数的数である. $\pi\sqrt{-1}\neq 0$ であるから, Lindemann の定理によれば, $e^{\pi\sqrt{-1}}$, $e^{0}$ は $\overline{\mathbb{Q}}$ 上 $1$ 次独立ということになる. ところが, 有名な Euler の等式 $e^{\pi\sqrt{-1}} = -1$ により \[ e^{\pi\sqrt{-1}} + e^{0} = 0. \] よって, $e^{\pi\sqrt{-1}}$, $e^{0}$ は $\overline{\mathbb{Q}}$ 上 $1$ 次従属である. これは矛盾である. したがって, $\pi$ は超越数でなければならない. (解答終)

[例題] $\alpha\neq 0$, $1$ を代数的数とする. このとき, $\log\alpha$ は超越数である.

[解答例] 背理法により証明する. $\log\alpha$ が代数的数であると仮定して矛盾を導く. まず, 複素対数関数 $\log z = \log{\lvert z\rvert} + \sqrt{-1}\arg z$ について \begin{align*} \log z = 0 & \Longleftrightarrow \log{\lvert z\rvert} = \arg z = 0 \\ & \Longleftrightarrow \lvert z\rvert = 1,\,\arg z = 0 \\ & \;\Longrightarrow z = 1 \end{align*} が成り立つことに注意すると, $\alpha\neq 1$ より $\log\alpha\neq 0$ である. 背理法の仮定と以前の例題より \[ \alpha = e^{\log\alpha} \] は超越数である. これは矛盾である. (解答終)

[例題] $\alpha$ を $0$ でない代数的数とする. このとき, $\sin\alpha$ は超越数である.

[解答例] 背理法により証明する. $\sin\alpha$ が代数的数であると仮定して矛盾を導く. 三角関数についての公式 \[ \sin z = \frac{e^{\sqrt{-1}z}-e^{-\sqrt{-1}z}}{2\sqrt{-1}} \] より, \[ e^{\sqrt{-1}\alpha} - e^{-\sqrt{-1}\alpha} - 2\sqrt{-1}\sin\alpha\cdot e^{0} = 0. \] 背理法の仮定より $\sin\alpha$ は代数的数であるから, $e^{\sqrt{-1}\alpha}$, $e^{-\sqrt{-1}\alpha}$, $e^{0}$ は $\overline{\mathbb{Q}}$ 上 $1$ 次従属である. 一方, $\alpha$ は $0$ でない代数的数だから, $\sqrt{-1}\alpha$, $-\sqrt{-1}\alpha$, $0$ は相異なる代数的数である. Lindemann の定理から, $e^{\sqrt{-1}\alpha}$, $e^{-\sqrt{-1}\alpha}$, $e^{0}$ は $\overline{\mathbb{Q}}$ 上 $1$ 次独立である. これは矛盾である. したがって, $\sin\alpha$ は超越数でなければならない. (解答終)

[例題] $\alpha$ を $0$ でない代数的数とする. このとき, $\cos\alpha$ は超越数である.

[解答例] 背理法により証明する. $\cos\alpha$ が代数的数であると仮定して矛盾を導く. 三角関数についての公式 \[ \cos z = \frac{e^{\sqrt{-1}z}+e^{-\sqrt{-1}z}}{2} \] より, \[ e^{\sqrt{-1}\alpha} + e^{-\sqrt{-1}\alpha} - 2\cos\alpha\cdot e^{0} = 0. \] 背理法の仮定より $\cos\alpha$ は代数的数であるから, $e^{\sqrt{-1}\alpha}$, $e^{-\sqrt{-1}\alpha}$, $e^{0}$ は $\overline{\mathbb{Q}}$ 上 $1$ 次従属である. あとは, $\sin\alpha$ のときと同様にして矛盾が導かれる. (解答終)

[例題] $\alpha$ を $0$ でない代数的数とする. このとき, $\tan\alpha$ は超越数である.

[解答例] 背理法により証明する. $\tan\alpha$ が代数的数であると仮定して矛盾を導く. 三角関数についての公式 \[ \tan z = \frac{\sin z}{\cos z} = \frac{e^{\sqrt{-1}z}-e^{-\sqrt{-1}z}}{\sqrt{-1}(e^{\sqrt{-1}z}+e^{-\sqrt{-1}z})} \] より, \[ \tan\alpha\cdot\sqrt{-1} = \frac{e^{\sqrt{-1}\alpha}-e^{-\sqrt{-1}\alpha}}{e^{\sqrt{-1}\alpha}+e^{-\sqrt{-1}\alpha}}. \] 整理すると, \[ (\sqrt{-1}\tan\alpha - 1)e^{\sqrt{-1}\alpha} + (\sqrt{-1}\tan\alpha + 1)e^{-\sqrt{-1}\alpha} = 0. \] 背理法の仮定より $\tan\alpha$ は代数的数だから, $\sqrt{-1}\tan\alpha - 1$, $\sqrt{-1}\tan\alpha + 1$ はともに代数的数である. また, $\sqrt{-1}\tan\alpha - 1\neq\sqrt{-1}\tan\alpha + 1$ であるから, 少なくとも一方は $0$ でない. よって, $e^{\sqrt{-1}\alpha}$, $e^{-\sqrt{-1}\alpha}$ は $\overline{\mathbb{Q}}$ 上 $1$ 次従属である. あとは, $\sin\alpha$ のときと同様にして矛盾が導かれる. (解答終)

[例題] $\alpha$ を $0$ でない代数的数とする. このとき, $\sinh\alpha$, $\cosh\alpha$, $\tanh\alpha$ は超越数である.

[解答例] 双曲線関数についての公式 (あるいは定義) \begin{align*} & \sinh z = \frac{e^{z}-e^{-z}}{2},\quad \cosh z = \frac{e^{z}+e^{-z}}{2}, \\ & \tanh z = \frac{\sinh z}{\cosh z} = \frac{e^{z}-e^{-z}}{e^{z}+e^{-z}} \end{align*} を利用すれば, 三角関数のときと同様にして示すことができる. (解答終)

参考文献

  • 塩川宇賢:無理数と超越数, 森北出版, 1999.

【theme : 数学
【genre : 学問・文化・芸術

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